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コラム 死と生の文化史<パンデミック編> presented by 雅倶楽部 2020年12月12日掲載

【恐怖】無症状でチフス菌をばらまいたスーパースプレッダー「メアリ」

かつて、アメリカに無症状でチフス菌を保菌し、行く先々で拡散する料理人が存在しました。本稿では、スーパースプレッダー(拡散者)「メアリ」の一生についてご紹介いたします。

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新型コロナウィルス感染症でも、症状が出ていないのに各種検査で陽性と判断されてしまうケースがかなり多いことが問題になりました。

新型コロナの特異性のように理解されているケースもあろうかと思われますが、それと似たケースは過去に大流行した疫病の中にも実は見られます。20世紀なかば以前は、日本を含む世界中で大流行した腸チフスを例に、「健康保菌者」のちょっと怖いお話を今回はお届けします。


チフスの病名は、ギリシャ語の「霧」もしくは「意識朦朧」という単語がもとになっているといわれます。

腸チフスの症状のひとつである高熱と意識障害を指しているわけですが、腸チフス菌に感染した後、劇的に症状悪化するまでの数日は体調不良程度で済むことが多く、保菌者は腸チフス菌をそこらじゅうにバラまいて、感染拡大させてしまうのです。

しかし、ごく少数ながら「健康保菌者」と呼ばれる人たちがいます。

彼らは何年、何十年もの間、腸チフスに感染しつづけたまま、自分自身には何の症状を出すこともなく、淡々と生活をしつづけます。

腸チフスの健康保菌者は、腸チフスの菌を胆道や胆嚢(たんのう)に住まわせたまま生きているわけです。そして免疫も出来ず、知らず知らずのうちに周囲にチフスの大流行を引き起こしつづけるのでした。

チフス菌が蔓延する場所に必ずいる料理人

歴史に残る伝説の「健康保菌者」もいます。通称「チフスのメアリ」ことメアリ・マロン(1869-1938)は、アイルランドからアメリカに移民してきた、優秀な女料理人でした。

しかし、彼女の勤めた家庭や施設では、彼女の在職時、かならず腸チフスが蔓延するのです。

1902年の夏頃、メアリを雇ったアメリカ・メイン州ダークハーバー在住の弁護士一家8人のうち7人が、彼女の着任から2週間以内に腸チフスで倒れました。

もちろんメアリが健康保菌者であるからなのですが、メアリは献身的に病人を看護してまわり、事情を知らない弁護士は彼女の働きに感謝し、50ドルのボーナス(現在の貨幣価値で約10万円)を支払ったそうです。

ブラックジョークのような本当の話です。

興味深いのは、メアリは死ぬまで、自分が保菌者である事実を決して認めなかったこと。しかし、やはり思い当たるフシはあったのかもしれません。自分が勤める家庭・施設で次々とチフス患者が出ることが決して偶然ではない、ということに……。

あのー、犯人わかっちゃったんですけど…

1909年のことです。メアリは、例のごとく当時の雇い主一家の大半を腸チフスに感染させた後、何かを感じていたのでしょうか。その身をすでにくらませていました。しかし、病気の雇い主一家の手当をしていたソーパーという医師がついにメアリのことを怪しいとカンづいてしまいます。

ソーパーはメアリの追跡を開始しますが、発見まで時間がかかりました。

それでも六ヶ月後、ついにソーパー医師は、彼のお膝元であるニューヨーク・マンハッタンの高級住宅街パーク・アヴェニューにあったお屋敷のキッチンでメリケン粉をこねているところを取り押さえます。

しかし、ソーパーが「チフスの発生は、君と関係があるんだ」とメアリ告げた瞬間、彼女は包丁を手に襲いかかってきたそうです。

その後は刑事ドラマのような大捕物劇が行われ、ついにメアリの身柄はニューヨーク警察の手に落ちました。新聞などのマスコミは”格好のネタ”を手に入れ、メアリを「魔女」として嬉々として描いたそうです。

この時代、チフスを治療する効果的な薬剤はまだ発明されてはいません。メアリの身柄についても、雇い主に感染させる可能性が高い料理女から、掃除女に転職させられることになっただけでした。しかし、彼女はこれを不満に思い、ふたたび姿をくらませるのでした。

そしてメアリ・ブラウン夫人と微妙な変名を使い、料理女に執念の復帰を遂げるのです。

かくまで調理職にこだわるメアリにとって、料理とは唯一の才能であり、誇りであり、生きがいであったようです。ところがメアリが姿を消して5年目の1915年、メアリ・ブラウン夫人の周囲でチフスが大流行しはじめます。

メアリが体内で「飼っている」腸チフス菌が非常に活発になっていたのでしょうか。感染拡大のスピードがあまりに早いため、今度は誰もメアリのことを疑わないのです。

身分を偽り病院勤務…院内クラスター発生

彼女が勤めていたニューヨークのスローン婦人病院ではなんと25名もの患者が発生しました。いわゆる院内クラスター感染という最悪の結果です。メアリは同僚から疑われていると感じ、この病院から逃げ出します。

ニューヨークのロングアイランドで働いているところをまた逮捕され、ついに刑務所の隣りにあったリヴァーサイド伝染病院内に、終身隔離されることになりました。

料理女の仕事をすることはもはや許されませんでしたが、リヴァーサイド伝染病院では検査係や介護職として働くようになりました。まぁ、チフス菌をばらまいている検査係や介護職というのは、これはこれでブラックジョークのような何かではありますが。

1938年11月、メアリはニューヨークで亡くなります。結局、逮捕から死ぬまで病院内に隔離された人生でした。メアリの葬儀は大きな聖ルカ教会で行われたそうですが、葬儀に参列したのはたった9人だったそうです。

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