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コラム 死と生の文化史<パンデミック編> presented by 雅倶楽部 2020年10月8日掲載

ヨーロッパの人口の1/3を消し去った黒死病(ペスト)とは

ヨーロッパの人口の1/3を死に追いやった「ペスト」。
日本では黒死病とも呼ばれ、日本人「北里柴三郎」がペスト菌を発見したことでも知られています。
本稿では、歴史上最悪の疫病と恐れられたペストの発生起源、拡散原因のほか、各都市がどのような対処法を行ったのかについて触れていきます。

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中世ヨーロッパを中心に約300年周期での大流行を繰り返し、人々から大いに恐れられたのペストという病です。もとはネズミの病気だったのを、ノミが媒介して人間にも感染するようになったといわれますね。

他の感染症とは比べ物にならないほどの高い致死率を誇るペスト(黒死病)のケースを取り上げながら、今回はお話しようと思います。

伝染病の流行を食い止めるには、伝染病の原因となる菌・ウィルス、そしてその保有者を隔離するしかない……そんな事実を、いにしえの為政者たちも知っていました。しかしそれは今も昔も、言うは易く、行うのは難しい判断だったようです。

北里柴三郎によって発見されたペスト菌

ペストはペスト菌によって引き起こされる感染症です。1894年には我が国の北里柴三郎と、フランスのアレクサンドル・イェルサンが同時期にペスト菌を発見しました。

ペスト菌の発祥地は長い間不明でしたが、「その起源は約2600年前の中国・雲南省にあった。また、これまであった3回の世界的流行はすべて中国起源だった」という興味深い説が、アイルランドのコーク大学、マーク・アクトマン教授らの国際研究チームによって2010年に発表されています(『感染症の世界史』)。

中国とは位置的に近い日本ですが、島国だったがゆえか、ペスト患者が発生した記録は19世紀末の流行が(現時点では)最初で最後になっています。

また、当時すでに抗生物質が利用できたこともあり、この時の流行は我が国では部分的なものにとどまりました。

歴史エッセイスト・作家 堀江 宏樹

(現時点では)最初で最後…かつてほどの大流行はないが、現在でも世界各地でペストの小規模発生は確認されつづけている。

中世初期まではアジア~中東あたりまででペストの発生は限定されていたとされます。

歴史エッセイスト・作家 堀江 宏樹

中世ヨーロッパにおけるペスト大流行の”震源地”…

中国発祥の病とされるペストだが、中世のヨーロッパで大流行した時の”震源地”は中東という説が近年は強い。

ペストを拡散したのは交易と戦争だった…

たとえばペスト発祥の地とされる中国での感染の記録も、実はあまりありません。

これは首都圏から離れ、とくに人の行き来が少なかった雲南や、満州あたりにペストの発生は限定されていたため、当地の風土病扱いだったといわれていますね(『感染症の中国史』)。

しかし中世以降、交易がさかんとなり、また「十字軍」などの戦争を通じてヨーロッパが中東に干渉を行った結果、ペスト菌はヨーロッパ全土に広まってしまったようです。
そして史上まれに見る規模でのペストの大流行がヨーロッパ全土を襲ったのは、1347年頃からでした。

歴史エッセイスト・作家 堀江 宏樹

14世紀後半のヨーロッパでペストが大流行してしまった理由…

当時のヨーロッパは、「中世温暖期」と呼ばれる平均気温の高い時期にあり、作物は豊作、農村・都市ともども人口は増えていました。しかし、衛生観念が低かったため、ゴミや排泄物が巻き散らかされ、それを餌とするネズミたちが大量発生していたようです。元来、ネズミたちの病であるペストですが、ノミを介して人にも二次感染……これがペスト大流行の下地となったといわれます。

大量発生した街からは腐ったりんごの臭いが…

1347年末、イタリア南端のキプロス島でついにペストの流行が始まったという記録を皮切りに、イタリアの諸都市を壊滅させながら、次第にペストは北上していきます。

すでに交易が盛んに行われていたイタリアの諸都市は、活発に人の出入りが行われていましたが、これが完全に仇となりました。

ペストの潜伏期は数日から一週間ほど。

突然、39度を超える高熱で患者が倒れるところから地獄がはじまり、全身に麻痺がひろがります。ついでリンパ節や鼠径部が腫れ上がり、やがて心肺機能が低下、最終的に全身の皮膚に紫の斑点が広がり、そこから血や膿が垂れ流されて、死に至ります。

また、死体の一部が黒ずむことから、我が国では黒死病とも呼ばれています。

歴史エッセイスト・作家 堀江 宏樹

14世紀後半のペストの流行の致死率…

国によって差があるが、控えめに言えば感染者の半分程度。ヘタすれば7~8割がくらいが死んでしまったと考える学者が多い。

恐ろしいことに患者の身体からはまるで腐ったりんごのような臭気が立ち込めたといいます。患者が大量発生した街からは、異臭が遠くまで漂ってきたとか……。

ペストにやられたという悲惨なニュースが各地から飛び込んでくる中、イタリアの諸都市は、対策に乗り出しました。

ヴェネツィアではペストが発生した都市からの船の入港が制限され、ミラノでは感染者が出た家は封鎖され、近づけなくなるなどの工夫が図られました。

しかし、「人権」という考えがなかった過去の時代でも、完全隔離の決断には至らないケースが圧倒的多数だったことは覚えておくべきかもしれませんね。

冒頭でもお話したように具体的な対策といえば隔離しかなく、隔離を完全に行うことは交易の機会を失い、患者を見捨てることにほかならず、そもそも隔離政策を行う前に、ペスト菌を保有した人を1人でも街にいれていた場合、感染を防ぐ手段はないのですから……。

歴史エッセイスト・作家 堀江 宏樹

感染拡大を防ぐ手段…

医師のライムンドゥス・デ・ヴィヴァリオ(1334ー)は、組織的に隔離を有効に行えなかったペスト大流行当時の医師たちの不見識と怠慢を責める論文を後年、残したという(『ペスト大流行』)。

ちょうど2020年の新型コロナウィルスによる感染症について、日本中の医師たちどころか専門家の見解がバラバラになったり、お互いを責め合っている様を思わせるが、21世紀になっても組織的に感染症が発症した際の隔離対策はまったく想定さえされていなかった観がある。

「神の手に任せる」とうそぶいた為政者によるペスト患者への強硬手段

そんな中、1374年1月、イタリアのレッジオという都市の領主・ベルナーボ公爵だけは自身の強力な政治主導の結果、徹底的な対策法をあっという間に作りました。

ベルナーボ公爵の厳命で、ペスト患者は街の外に放り出され「神の手に任された」……つまり原野に放置されたそうです。

患者に家族などが付添うことは許されましたが、街の外に出ると10日は戻ることができません。

そうしたルールを破ったり、患者を隠した場合などは財産没収の上、火炙りになるというペナルティが課されました。

当然、批判はありましたが、当時は身分社会ですから領主の勢いはとめられず、結果的にもレッジオでのペスト感染は収まっていきます。

……というか、レッジオの領主・ベルナーボ公爵がこうした強硬策に踏み出せたのは、ペストの感染がイタリアでは終息に向かいつつある時期だったからですね。

歴史エッセイスト・作家 堀江 宏樹

レッジオ…Reggio、発音からレッジョとも表記。パルマにほど近い、エミリア街道上に位置する小さな町。

そもそもすごいスピードで感染が広がり、バタバタと人が死んでいく感染の最盛期であれば、都市機能はあっという間に麻痺します。

何しろ感染から発生までの潜伏期間は早ければ1日程度。とくに肺ペストと呼ばれる症例のペストの場合、発病から1日で死んでしまうケースもありました。

それゆえ、そんな状況では政治家による主導もなにも出来たものではなかったからです。

その後、ペストはヨーロッパ大陸を縦断して北はイギリスにまで広がっていきます。その後はドイツを経て、1351年にはロシアにまで拡大します。

しかし次第に感染速度は落ちていき、流行開始から約4年を過ぎてようやく終息に向かったとされます。当時の医学では手の施しようがなく、当時の人々はただペストが過ぎ去ってくれるのを祈るしかありませんでした。

ペストが通り過ぎた諸都市の人口は何分の一にまで減少するのが常でした。過密都市だったロンドンなどはとくに被害が大きく、ヨーロッパ全土の人口はペスト流行前の3分の1まで減少したという試算まであります。

このような悲惨なペストの大流行を、過去の歴史の中で日本がほとんど経験しなかったのは幸福としか言いようがありません。

しかし、かつてのように島国というだけでは感染を食い止めることはできないことは新型コロナによる感染症拡大のケースでもあきらかですね。

中世イタリアのように、権力が一部の層に完全集中していた時代ですら、隔離政策を徹底することは困難でした。

今後、日本にもペストの再来、もしくはもっと恐ろしい感染症が新たに発生しないともかぎらず、有事の政府のリーダーシップに期待するほかはありません……。

歴史エッセイスト・作家 堀江 宏樹

感染拡大を防げなかった場合、この頃は身分社会ですから貴族・王族である為政者より、医師たちが批判を浴びる

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